上海の昼間はすっかり初夏の陽気です。

21日から上海へ来ていますが、一人で来る自信が無くて家内に付き添って来てもらっています。

そして、来週早々にまた帰国し、2週間後本格復帰する予定です。
2ヶ月強日本で養生し上海へ戻ってみると、今更ながら、中国上海の常識や習慣の違いに驚いています。

前号で、日中のサービスの違いを報告したが、そんな生易しい違いでは無い様です。
上海の“空気”には、抵抗力の衰えた私は身心がついて行けないので厳重にマスクをし、人ごみを避けて市内各所を行動をしています。

そんな風景から報告します。

【歩行者のひどい通行マナー】

歩行者の通行状態は、ほぼ100％違法状態である。

見出しに「ひどい通行マナー」と書いたが、日本的な感覚であればマナー以前の無法地帯と言ってよい。
私の上海の住み家は、中環状線の近くでかろうじて環状線の内側すなわち都心側であり、新市街とも言えるところである。

近くの交差点で歩行者の横断状態を（休憩しながら改めてつくづく)観察すると、90％以上の人が信号無視をしている。たまに信号を守っていても停止線で止まらない。それらの全てを守っている女性がいたので驚いてよく見たら、道路横断中咥えタバコで歩いていた。すなわち100％の人が何らかの法律違反をしているのである。しかし、困ったことに「私は違法行為をしている」という意識は、大部分の人が持っていない。

それが証拠に、親子連れで横断する場合、子供は学校で学んだルールを守ろうとして親を諌めるが、親は「そんなことでは世渡りはできないよ」と言わんばかりに子供の手を強引に引っ張って信号無視をさせている。
上海などの大都会の都心部は、少しはルールを守っている。

それだけ意識の高い、高級サラリーマンや高学歴あるいは外国で学んだ人が多いからでもあるが、最近取締りが厳しくなり歩行者でも罰金を取り出したためでもある。「中国式道路横断」を止めさせようという政府の必死の政策は昨年の年末号で報告したとおりである。

【交通事故・交通渋滞の多発】

自動車の運転マナーのひどさも同じである。

割り込み運転、急ハンドルなど日常茶飯事であり事故があとを絶たない。日本でニュースになるような大事故は毎日何処かで起きており、数人の死亡事故などは報道もしない。
自動車所有率と人口から考えると日本の10倍以上の事故確率であり、危険一杯の上海だということである。

【マナーが悪い理由は何故か？】

改めて何故こんなにひどいマナーなのか、私なりに考えてみた。
この答えは三者三様であり正解はないことをお断りしておく。

第一に法治国家となって未だ歴史が浅く、その概念が定着していないのである。年寄りは知らなくても当然だが、それだけでなく多くの国民も法律そのものを知らない。

法律の多くは、この数十年にできたばかりである。改革開放が進み出してきてからのモノが多く、教える間もない。
しかも、法治よりも人治の時代が長く、法律はどうでもよかったのである。近年においてさえも、法律の解釈を政府当局に聞かなければ分からないモノが極めて多かった。仮に、それを当局に聞いて守っていたとしても、当局の担当者が変わると解釈がころっと変わって困ったという話はよく聞いた。
2001年のWTO加盟条件で、それの改善が約束されたが12年経った今でも未だまだである。国には法律があり、組織にはルールがあり、それは守るべきものだとは、街の市民にとってはとんでもなく遠い話であろう。

第二に法規よりも実利、組織よりも個人という考えの国民性が禍いしている。

古くは文化大革命や大躍進政策の失敗による政府不信。近年においても、賄賂政治による政府不信は相変わらず根強い。

高級役人の多くはバブルで儲け、庶民はバブル崩壊で大損した。これは情報の量とタイミングの違いである。大震災が起きれば総理も飛んでくるが、小震災なら誰も見向きもしてくれない。さっと壊され埋められて跡を消されてしまっている。
国や地方は自分を守ってくれない。社会は自分を守ってくれない。守ってくれるのは自分と一族だけである。
だから、組織よりも個人となってしまったのであろう。

余談だが、政府はこれでよいとは思っていない。対策として必死に行っていることの一つが教育である。
中国を愛し現政権の正当性を理解してもらうための愛国教育であり、最近の文明（マナー)教育である。
その中身と功罪については当レポートでは触れないが愛国教育は15年以上続け確実にその影響が強く出ている。
中国では、そういう国民が漁師や兵隊をやっているということを前提にして、日本では国防を考えるべきであるが、どうも日本でしか通じない常識で考えた国防や外交を行っているように思えてならない。
とにかく、結果として法律やルールに対する国民意識はこうである。

「そんなことは知らない、教わっていない」
「見つからなければ構わない」
「罰則・罰金が無ければ構わない」
これが、街の交通ルール遵守状況に表れているのである。

企業内ではどうであろうか？

放っておけば、街の交差点と同じになることは明白である。だから、古い体質の企業では一つ加えて次のようにしている。

「そんなことは知らない、教わっていない、と言わせないように規則集にサインさせる」
「見つからなければ構わない、と言わせないように監視を強化している」
「罰則・罰金が無ければ構わない、と言わせないように規則を作った」
「報奨金が無ければやらない、と言わせないように制度を作った」

しかし、そんな企業に先は無い。
罰則・罰金や報奨金で社員の心は掴めない。心を掴まない限りは、必ず裏をかこうとする。

余談だが
日本で病気療養中に、家内が取っておいてくれた古新聞の全てを読破した。その中で、特に2007年〜2008年の毒入り餃子事件の記事が目立った。中国では殆ど報道していない事件だが日本では毎日の様に大きく取り上げられていたのである。

当初、中国ではきちんと監視カメラその他で管理しており毒も使用禁止されており、中国では絶対に入らない。日本で中国いじめの為に入れたのだ。とされていたのが、逆転し中国の工場で会社に恨みを持った社員が故意に毒を入れたということが判明したのである。この事件の詳細は日本に居る皆さんの方がご存知であるので省くが、ここで教わったことは次である。

「故意に悪いことをしようとすれば、監視はしきれない。社員全員を、365日24時間、360度監視することは不可能である」
「我社の社員は皆な仲間だ！仲間を裏切るようなことはやらないはずだ。との信頼関係が重要だ」
すなわち、性悪説と性善説をミックスした管理が必要だということである。

国家としても簡単に出来ない「ルール遵守」や「しつけ」を「一企業では無理だ」と諦めている日系企業もあるが、そのような企業は中国で経営すること自体諦めたら如何かな。
中国系企業でも、金や地位だけでは社員の心は掴めないことは理解し始めた。掴めない限りは面従腹背の関係であり企業の発展は望めない。発展がないということは相対的に退却であり倒産すると覚悟をしている。だから、中国系一流企業の教育（研修)予算は、日系企業のそれよりも遥かに大きいそうだ。何回も書きますが、企業内に「中国式道路横断」や「中国式運転」を持ち込まれたら終わりです。
日本以上に素晴らしい「ルール遵守」や「しつけ」の企業は中国にいくらでもあります。
そのような企業があったら見てみたい？いつでもご案内しますよ。